神代桜のお話  2013/02/27

稲作を始めた弥生人が竪穴住居に住んでいた2000年前に根を下ろした神代桜は文字通り日本最古の桜です。第13代天皇の日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が東夷征定の折りにこの地に留まり、記念にこの桜を植えたと伝えられています。大正11年(1926年)国の天然記念物に指定され、三春滝桜福島県)、淡墨桜岐阜県)と共に日本の3大桜のひとつです。ソメイヨシノより少し早めに花をつけるエドヒガンで、見頃は年により前後しますが3月下旬から4月中旬までの2週間弱となります。神代桜が見られる山梨県北杜市武川町の実相寺境内には全国から大勢のお花見客が訪れます。長き間に1度も休む事なく春に見事な花を咲かせる神代桜の生命力と根回り13.5メートルの威風堂々とした姿に感銘しています。古くは多くの土器が出土されている北杜市に住んでいた弥生人も百歳か二百歳の幼少の神代桜をきっとめでたことでしょう。

 

神代桜の最も古い写真がお隣に住む溝口さん宅の本棚からでてきました。マッチ箱大の小さな写真には明治40年に山梨県の県令(現在の山梨県知事)が大勢を集めて花見に来た様子が写っています。見事な枝張りは現在の倍の30メートルと推定されます。面やボリュームに換算すると4倍・8倍となります。昭和50年代になると困った事に樹勢が衰え始め昭和59年(1984年)に櫓(やぐら)が掛けられました。それ以降も樹勢の衰えが続き、樹木医による調査・診断の後に、根に活力を与える為に土壌微生物に富む土に丁寧に入れ替えました。この作業は4年の歳月をかけ2006年に完了しました。「樹勢は回復したようだが、一方、櫓も取り払った事で直接雨風があたるようになったので古い幹の痛みが進んだようだ」(溝口さん)と心配もまだ続いています。その後も適宜樹木医による診断が続いています。こういった老木がゆえに枝の成長もスローで節と節の間隔も狭くなり、花が密集して付きます。若木が花を付ける様子とは違った趣があり、人々を楽しませてくれているのです。

 

見事な花を魅せる桜の晴れ姿はせいぜい2週間。それ以外の11ヶ月と半月は殆どの人に忘れ去られます。しかし、桜自身は養分や水分を吸収し呼吸をして明日への命を繋ぎます。人間の出来る事は限られていますが、前出の溝口さんは夏の間は毎日のように3時間かけて甲斐駒ケ岳の名水を用水路から引いて桜の根元を潤しているのです。誰も見ていない長き間の自然の営みや愛情に満ちた世話というのは共に尊いものです。これからも何十年、何百年と続けて多くの人々を感動させる事を願っています。「私たちに与えてくれるものは、花の美しさだけではない。懸命に生きる力とその尊さに美を感じ、感動するのである。」(実相寺 住職 松永直樹さん)