超安全な新手の農薬の危険 2013/05/31

私達のような無農薬栽培の農家は極少数ですが、大多数の農家では多少の差はあれ農薬を散布して野菜を栽培します。キャベツは都市近郊でも栽培されているので農薬散布の現場をご覧になった方も多いでしょうが、栽培中に毎週計20〜30回ほど撒くのも稀ではありません。最近韓国にトップの座こそ明け渡しましたが、単位当りの農薬使用量は世界でも郡を抜いています。日本は米国の7倍、豪州の25倍です。また、量だけを考慮すれば良いのではなく、少量でも効く新手の農薬は日本人の健康は言うまでもなく地球環境そのものを破壊しかねない勢いを持ちます。

 

さて、この半世紀に農薬はどう進化・変化してきたのでしょう。悪名高きDDTが世界的に使用禁止になったのは1971年です。戦後GHQが子供の頭にDDTの白い粉をぶっかけていた映像は鮮烈でしたが、強毒性の立証で全面禁止になるまで23年間にわたり主たる農薬のひとつとして時の政府のお墨付きのもとで撒き続けられました。当時の日本の欠食児童問題の解決の助けになったのも事実でしょうが、これにより世界中の数えきれない人々の健康が害されたのも事実です。

 

現代の農薬については次の二つの代表的農薬の例が実態を物語ってくれます。まずDDTの次に1960年代から世界的に普及した有機リン系農薬です。効果が高い故にかねてから安全性に疑問が持たれ、EUでは16年間におよぶ徹底した検証の結果、健康への影響が大きい事を立証して2007年に使用禁止としました。

もう一つは1990年代前半に開発され、いま巷で話題になっているネオニコチノイドです。製造元では、少量で害虫(昆虫類)の神経系に致命的なダメージを与え、人間には安全と唱っています。いま作物の7割の受粉に媒介するといわれるミツバチは帰巣本能に異常をきたす等して世界的に大量死しています。半世紀前と比較し、米国では50%、EUでは25%減少しました。例えてみますと、お父さんが会社帰りに一杯飲んだ後に家路が分からなくなり、お母さんがママ友のお宅でお茶を飲んだら家とは逆方向に歩き出して共に帰宅せず、お腹を空かせる子供達は成すすべもないという状態があちこちで起き、遂に日本の人口が半分の6千万人になってしまったというような事がミツバチ社会で起きています。

ミツバチは養蜂業者がカラになった巣箱を数える事で数の把握ができますが、ミツバチだけが例外である筈もなくトンボ、カマキリ、てんとう虫や蜘蛛達も哀れに神経が冒されて減少してしまっているのでしょう。生態系への影響は深刻です。こういったミツバチの大量死の事実を深く受けたEUでは、5月25日に一部例外を除きこのネオニコチノイドの2年間の使用禁止を決定しました。

 

更に、日本で30年間で13倍に増えたパーキンソン病は神経伝達物質のドーパミンを作る神経細胞に異常をきたし発病しますが、それら人間に対する神経系ダメージも科学者達はネオニコチノイドとの因果関係について検証をしています。前出の有機リン系農薬さえも使用を続けている日本でネオニコチノイドの使用に終止符が打たれるのでしょうか。EU市場に魅力をなくした農薬の製造元はますます日本市場に押し寄せるのは容易に想像できます。思うまでも知るまでもない一般の消費者の食の安全、そして地球環境の保全はどうなるのでしょう。

 

最後になりますが、ある農家が私に、ルーペでやっと見える虫食い跡が残る大豆を一粒手に取って「これを買って貰うのは申し訳ない、もう1~2回余計に農薬を撒くべきだった」と言っていました。一般の農家は消費者の為と思い、農薬で自身の健康を害するリスクを背負ってまで農薬を散布するものです。義務感のような固定観念です。消費者と生産者の野菜に対する価値観がどこか歪んでしまっているのが現実です。地球環境は勿論、食の安全、そして、食に対する価値観と文化は食に関わる人間のひとり一人が守ってゆかねば近い将来取り返しのつかない事になると野菜を前にして強い危機感をもつこの頃です。